マズローの欲求階層説
子育ても子どもの成長も十人十色、さまざまです。
ときに親の愛情から良かれと思ってやっていることが子どもの成長を阻害することもあります。
代表例は「親の過干渉」です。
素直でかわいいと思っていた子も、自我を確立する過程で自然に反抗期を迎えます。
子育ては難しいものです。親は多かれ少なかれ迷いの連続です。
私は、過去10年に渡り、NPO教育支援協会という団体で、社会教育活動を行っています。
その中で、非常に暗澹たる気持ちになる事例として、児童虐待や不登校問題などがあります。
単純に家庭問題や本人の問題で片付けられるものではなく、その背景には長引く不況、非正規労働者の増加、格差の拡大、離婚など複雑な社会不安(問題)が潜んでいます。
戦後、高度経済成長のころの親は比較的単純でした。
国の経済が右肩上がりに伸び、それに応じて国民の所得もぐんぐん伸びました。
終身雇用・年功序列が確立している中、親子ともども、将来の幸せ(安定)のためには、「いい高校⇒いい大学⇒いい会社」を目指せばよかったのです。
必然的に過度の学歴偏重社会が出来上がりました。
現在の中国、韓国がややこれに似ています。
しかし、現代は大きく違っています。
多くの国民は将来に対して大きな不安を抱えています。
生きていくのが大変な世の中です。
そして、今回の大震災です。
(私たちは、福島の子どもたちの支援を行っています。詳しくは、http://fukushima-kids.org/をご覧ください。)
子どもたちの健全な成長を願わない親や大人はいません。
しかし、子どもは親(大人)が思うようには成長してくれないことが多々あります。
混沌とした現代の日本社会において、子どもが問題を抱えたとき、「マズローの5段階欲求説」が教育の分野(特にスクールカウンセリング)で活用され始めています。
「マズローの5段階欲求説」を教育カウンセリングに活用して成果を上げている学校としては、東京清瀬市の東星学園(幼稚園~高校までの一貫校)が有名です。
この段階を把握することで、子どもの抱える問題の根を探ることができ、問題解決の糸口が見えてきます。
「マズローの5段階欲求説(欲求階層理論)」
:アメリカの心理学者:アブラハム・マズロー(1908-1970)は、人間の欲求を低次(①)から高次(⑤)の順で分類し、5段階のピラピッド型の欲求の階層によって示しました。
ここで、注目されているのは、「低次の欲求が満たされないと、次の段階の欲求は芽生えることがない」という点です。
教育カウンセリングにおいては、逆に、年相応の欲求が芽生えていない場合には、その下のレベルの欲求達成に問題があるのではないかという観点でアプローチします。
①生理的欲求(低次)
:人間が生きていくために最低限必要な生理現象(飲食・排泄・睡眠など)を満たす欲求を指します。個体として生命を維持するために必要な根源的欲求です。
※「生理的欲求」が満たされないと、いらだち、不快感を覚え、徐々に体調を崩し、最後には病気になります。震災直後は多くの方々がまさにこの状態にまで陥っていたと考えられます。
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②安全欲求
:生命維持に必要な根源的欲求(①生理的欲求)が満たされると、次に、誰にも脅かされることなく安全に安心して生活したいという欲求が芽生えます。
雨風をしのぐ住居を欲する、戦争のない環境で過ごしたいと欲する、いじめのない環境を欲する、安定した収入を欲する、など安心・安全を欲する欲求です。
※「安全欲求」が満たされないと、危険をいかに回避し安全を確保するかに終始し、他の高次の欲求が現れてきません。
児童虐待に合えば、不幸にも第2段階の欲求すら満たされない状況に陥ることになります。虐待を止めることができなければ、親子を一旦切り離す措置をとるしか方法はありません。親子が切り離されても、子どもの「安全」が確保されれば、その子には次の段階の欲求が芽生えます。
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③愛情欲求(帰属欲求・社会的欲求)
:②の「安全欲求」まで満たされると、次に、他者(親兄弟を含む)から愛情を得たい、受け入れてもらいたい、集団に帰属したいという欲求(社会性)が芽生えます。ここで言う集団とは、最小単位の家族から会社や国家まで含みます。
※「愛情欲求」が満たされないと、帰属意識が芽生えず、集団に適応できない状態になります。逆に、集団に馴染めないケースでは、「愛情欲求」が満たされていないのではないかという観点からアプローチすることになります。
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④承認欲求(自我欲求)
:②の「愛情欲求(帰属欲求・社会的欲求)」が満たされると、次に、他者から、独立した個人として認められ、尊敬されたいという欲求が芽生えます。つまり「自我」が芽生えます。
分かりやすく言えば、「愛情欲求」の段階では、「他人にかまってもらいたい」という感覚に対し、「承認(自我)欲求」のレベルになると、「自立した個人として扱ってほしい」という感覚になります。
子どもで言えば、正常な思春期の状態と言えます。「親離れ」し、一人の人間として自我を確立したいという欲求です。
大人で言えば、能力に相応しい仕事を遂行し、他者から評価されたいという欲求です。
ここで再認識すべきは、前段階の「愛情欲求(帰属欲求・社会的欲求)」が満たされておらず、いずれかの集団に帰属していない状態では、自分を認めてほしい他者を認識することもなく、必然的に次の「承認(自我)欲求」が芽生えることはないということです。
※「承認(自我)欲求」が正常に芽生え、満たされていけば、子どもなら学校で、大人なら会社や社会でそれなりに成果を上げ、認められるようになっていくでしょう。
しかし、「親の過干渉」などで、自我欲求が満たされない状態が続けば、正常な成長は阻害され、さまざまな弊害が生まれる可能性が高まります。
現在、アメリカでは「極度の過干渉」とも言える中国人マザーの子育てが「タイガー・マザー」として大きな物議を呼んでいます。
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⑤自己実現欲求(高次)
:いよいよ最高次の欲求です。④の「承認(自我)欲求」が満たされると、最後の「自己実現欲求」が芽生えます。
以下のような欲求です。
・あるべき自分になりたい。
・自分の能力や可能性を最大限に引き出し、創造的活動をしたい。
・目標を達成したい。
・人間として更に成長したい。
・社会に貢献したい。
これらを見ると、最後の「自己実現欲求」まで達した人は、「自分を知り、自己実現を目指し、社会貢献も考えられる、謙虚で、ポジティブで、社会に有用な人物」と思われることと思います。
マズローは
「人はそれぞれ下位の欲求が満たされると、そのひとつ上の欲求の充足を目指す」
としています。
一足飛びに5段階目の「自己実現欲求」は芽生えません。
しかし、だれでも、1段階目から満たされていけば、必ず最高次の「自己実現欲求」まで達するとしています。
投稿日:2011/06/23