外国人講師から英語を習う意義(2)
前回は「外国人講師に英語を習う意義」として、子どもたちにとって「英語という異言語を受け入れやすい」「英語でコミュニケーションを図ってみたいという気持ちが芽生えやすい」という点について書きました。
今日は、2つ目の意義について書きたいと思います。

・意義-その2
『リスニングのコツが自然に身につき、英語を英語でダイレクトに理解できるようになる。』
:英語はなかなか自然には身につきませんが、低年齢であればあるほど(文字で英単語を認識できていない時期ほど)「リスニングのコツ」は自然に身につきます。
言語の習得はまず「聞く」ことから始まります。
当たり前のことですが、膨大な量を聞いて始めて、発話できるようになります。
インプットの量に比べて、はるかに少量のアウトプットしかできません。
「リスニング」ができなければ「スピーキング」は育ちません。
2歳児がよく、お母さんの言うことを「おうむ返し」しますよね。これは、言語習得において非常に重要なステップです。
ひたすら「リピート」することで「言葉」と「事物・現象」を統合し、「言語」として習得していくのです。
逆に言えば、「おうむ返し(リピート)」できない言葉は絶対に話せません。
余談ですが、オーシャンに7ケ国語を話す外国人講師が在籍しており、一度「フィンランド語」で話してもらいましたが、「おうむ返し(リピート)」が全くできませんでした。
さて、言語習得の最初のステップである「リスニング」について、ここで大きな障害となるのが、日本語と英語の言語そのものの決定的な違いです。
<決定的な違い(1)-「音」>
どなたも感じられると思いますが、英語には日本語にない「音」が実にたくさん存在します。
日本人にとって一番身近で難しい音は「LとR」でしょうか。
「th」の発音も難しいですよね。
意外に「w」の音も日本人は正しく出せていません。その他にもいっぱいあります。
「音そのものの違い」は語学学習にとって大きな障害です。
ネイティブ・スピーカーにとって極当たり前の「音」が、日本人には難しいわけですが、外国人講師から常に浴び続ける中で、また「フォニックス(Phonics)」の学習の中で、子どもたちは「音の違い」をだんだんと克服していくようになります。
「音」に関しては更に大きな障害があります。
日本語は1語1語がほぼ「母音」で終わります。
日本語の話し言葉は、表音文字である「ひらがな」「カタカナ」を用いれば、全て1音1音を文字化できます。
つまり、日本語は「母音」で終わることで、1語1語が区切られて発音されています。
また、日本語は「強弱(抑揚)」もあまりないので、実に聞き取りやすい言語と言えます。
これに対し、英語は「子音」で終わる単語の方が圧倒的に多いのです。
ですから、ネイティブ・スピーカーがナチュラルに話す際、前後の単語が連結(リエゾン)されて発音されることも多く、聞き慣れないときには、どこで切れているのかがわからない、といったことが起きます。
(※ちなみに、雑踏(騒音)の中では「母音」は聞き取りにくく、「子音」の方が聞き取りやすいものです。日本語のように母音が多い言語は、農耕文化を基盤とする「屋内言語」と言われ、比較的小声で通じる環境で育った言語です。これに対して「子音」の多いヨーロッパ言語は、狩猟文化を基盤とする「屋外言語」と言われ、遠くまで届くことに重点が置かれて育った言語です。森林の中で育まれた「ドイツ語」は、「子音」が力強く、全体的に重厚感あふれる言語になっています。)
更に英語は「強弱」が顕著で、日本語にはない独特のイントネーションがあります。リズム感があるとも言えます。音楽でも日本語よりも英語の方がリズムに乗りやすいですよね。
日本語をロックのリズムに強引に乗せたのは、サザンの桑田が最初でした。でも、リズムに乗せることを優先しているため、日本語の歌であるにもかかわらず、歌詞が聞き取れないことがありますね。
子どもたちが初期のTPR (Total Physical Response)の訓練で耳にする指示文に次のようなものがあります。
「Touch your head with your right hand.」
この英文が聞こえたら、子どもたちはただ「右手で頭を触る」という動作をするわけですが、外国人講師がナチュラルスピードで発話した場合、おそらく子どもたちには次のように聞こえていると思います。(アンダーラインの語は「強音」です。その他は「弱音」です。)
「Touchyour head withyour righthand.」
あえてカタカナ表記すれば、「タッチョア ヘッ(ドゥ) ウィズヨア ライ(トゥ)ハン(ドゥ)」くらいに聞こえているようです。
決して「タッチ / ヨア / ヘッドゥ / ウィズ / ヨア / ライトゥ / ハンドゥ」とは聞こえません。
ここで、「文字を知らず、どこで切れているのかよくわからない」状態の子どもたちは、自然に「強音だけを確実に聞き取って理解する」という「リスニングにとって最も重要なコツ」を身につけます。
今回の場合「強音」は「Touch」「head」「right hand」です。
この3か所だけ押さえておけば、とりあえず最初は用が足ります。
その他はとりあえずどうでもいいわけです。
勿論、聞く機会が増えれば、だんだん「弱音」まで認識できるようになります。
しかし、最初は何と言っても「強音=伝えたい重要な語=Key Words」を押さえなければ意味不明です。
そして、子どもはこの術を自然に身につけます。
中高生や大人で「最初から全部を聞き取ろうとがんばる人」ほどナチュラルスピードについていけず、逆にリスニングで伸び悩みます。
文字認識のない子どもたちは、重要な「Key Words」だけを上手にピックアップし(弱音はそれ程気にせず)大意をとらえるのに対し、リスニングの苦手な大人は、「聞き取れない語」の方に意識が向いてしまうのです。
ある程度気楽に(いい加減に)聞く姿勢の方がリスニング力はついていくように思います。
子どものすごさは、教えなくても自然にこれができることです。
<決定的な違い(2)-「語順」>
日本語と英語は「語順」がかなり違います。
言語同士でもかなり距離の遠い言語(:異なる語群)と言えます。
(ちなみに、日本語と韓国語は同じ語群に属する(近い)言語です。)
例えば、
「①だれが」「②いつ」「③どこで」「④だれと」「⑤なにを」「⑥どうした」
という日本語を英語の語順に並べ替えると、
「①だれが」「⑥どうした」「⑤なにを」「④だれと」「③どこで」「②いつ」
となり、ほぼ逆転しています。
「ぼくは」「昨日」「公園で」「友だちと」「サッカーを」「しました」。
⇒「I」「played」「soccer」「with my friends」「in the park」「yesterday」.
前述の「音」-「連結」-「強弱」の他に「語順」まで全く違うのです。
英語はかなりやっかいです。
子どもたちが外国人から音声ベースで英語を学ぶもう一つの大きな意義は、「語順の違いをいとも簡単に乗り越える」ことです。
音声ベースの指導では、「音は前から順番に消えていく」ので、正常な日本語の語順である「後ろから聞き取るわけにはいきません」。
「Touch your head with your right hand.」を聞いて瞬時に「右手で頭を触る」子どもたちは、「強音(Key Words)を前から順に聞き取って、英語の語順で瞬時に判断」しています。
つまり、「英語を日本語に置き換えて判断していない」のです。
音声ベースの学習は「英語を英語でダイレクトに理解する訓練」でもあります。
幼少期にこの術を身につけるかどうかは、将来の英語習得に大きく影響します。
音声学習を積んで「英語の語順で理解する」ことができるようになりますと、高校生になってかなり長い英文を読むときも、そのまま左から右へ読んで大意を理解できるようになります。何度も視線を前に戻さなくても大意が理解できれば、長文読解のスピードは格段に上がります。
続きは次回にて。
投稿日:2011/05/01